「こうの史代展」と絵本「うでまクマ」
- Mariko Miki- The Blue

- 9月30日
- 読了時間: 5分
更新日:10月7日
うでまクマ
その昔、広報を担当していたグループ会社の商品に枕一体型ぬいぐるみ「うでまクマ」があり、知り合いがこの商品の発案者で、ぬいぐるみのデザインも友人が担当したこともあり、ガッツリ広報・宣伝広告をやっておりました。
子どもが添い寝できる大きなクマさんの抱き枕。
うで枕をしてくれる、片腕だけが太くて枕の高さを指先にあるポンプで調節できる空気枕内蔵(そのせいで18,000円もした😥)。

商品のコンセプトは「大きなクマさんが、腕枕で涙を受け止めてくれる」。
「知り合い夫婦に離婚が多く、大人はそれで良いかもしれないけれど、その陰で子どもたちが深く傷ついている。でも親に心配をかけたくないと、健気に親の前では元気に振る舞って、本当は泣きたいのに泣くのを我慢している。だから、そんな子どもたちの涙を優しく受け止めてくれるものを作りたい」
と、発案者のS氏が長年温めていた企画でした。
そして、このコンセプトをきちんと伝えるために発案者のS氏がこだわったのが「うでまクマの絵本」の制作。
文章をS氏が書かれたのですが(作者の「あべひろあき」はペンネーム)、S氏が、
「この絵本の絵を描ける人は、こうの史代さんしかいません!」
と、その頃まだ世間ではほとんど知られていなかったこうのさんのことをどうやって見つけたのかわかりませんが、渾身の依頼をしたようで、めでたく承諾して頂いて双葉社から絵本「うでまクマ」が出版されたのが1997年。
正直、その頃私はこうのさんのことは全く存じ上げなかったし、漫画のことも絵のことも素人ながら、絵が美しいだけでなく、構図のすごさや、なんだか心の深いところにじわじわ来る絵の力に感嘆したことを覚えています(そして毎回読むたびに、文章と絵の相互作用で今でも必ず泣いてしまう)。
双葉社さんはパチンコ攻略本や男性向け漫画雑誌中心だったので、メディアから取材を受けた際に「双葉社さんから絵本も発売になります」と言うと、「えっ、双葉社が絵本を出すんですか!?」と毎回そうとう驚かれたのですが、その後もずっと、こうのさんと双葉社さんとのご縁は続いていたんですね。
今読み返しても「いい絵本だな〜」と思うので「復刻版出してください」と双葉社さんにお願いしようかと思ったら、展示の中で「うでまクマの原画は保存されていない」と、、、 ちょ、ちょっと、双葉社さ〜ん💦
その後、時が経ち、久しぶりにこうのさんのお名前を聞いたのは「この世界の片隅に」が大きな話題になった時。
映画化もされ、メディアで特集が組まれたり美術館で大規模な展示が開かれたり、
「『うでまクマ』はその後、生産も販売も終了してしまったけど、こうのさんはメジャーになられたんだなぁ」
と、うれしく思っておりました。
「こうの史代展」
先日ネットで千葉の佐倉市立美術館で「こうの史代展」が開かれていることを知り、三浦半島からアクアラインで東京湾を横断して行ってきました。

(佐倉市立美術館 「こうの史代展」ウェブサイト)
2階と3階の2フロアに、漫画の原画500点以上に加えて、小学生の頃に描かれた絵、手作り感満載の学生時代の同人誌や自費出版本、切り絵、絵日記、使われているペンや墨汁などの道具類などなど、「漫画家生活30周年」だけあって大回顧展。
(佐倉市立美術館のエントランス部分は大正時代に建てられた銀行)
感動したり感嘆したりびっくりしたり笑ったりで、出口を出た時には4時間近くが経っていましたが、強く印象に残っているのは、
・1997年発売の絵本「うでまクマ」も第2作目「タケシくんとうでまクマ」にもブランコのシーンがあり、その後の作品にもブランコのシーンが多いこと。そして子どもの頃にインコやニワトリを飼っていらしたことから「鳥」も多く描かれていて、なんとなく「重力から解放される自由感を愛する方なのかな」と思ったこと。
・広島のご出身で、ご自身は戦争を体験されていなくても「原爆を落とされた」影響下で育たれ、世の中の不条理をご自分の中に抱えられたことで、高度成長期〜バブルの中で育たれても浮かれポンチな女子大生にならず、ただ絵がきれい、上手い、おもしろいだけの漫画ではない芯のある底力を感じる作品を生み出されているように思ったこと。
・自費出版をされていらした頃には、たぶん世の中のほとんどの方がこうのさんの才能に気が付いていなかったのに、ちゃんと彼女の才能に気がついて仕事を依頼されたごく限られた目利きの編集者がいらしたゆえに、今のこうのさんのご活躍があること。
「『うでまクマ』の絵本の絵が描けるのは、こうのさんしかいない!」と思われたS氏の慧眼も、今思えばすごかった。
世の中のほとんどの人は、それまでに知っていても何とも思っていなかった物や人でも、「賞を取った」「有名人やインフルエンサーが話題にしてる」となると手のひら返しでチヤホヤするけれど、世間の評価は気にせずに、ちゃんと自分の価値観や美意識や感性で「これはいい」「この人はすごい」と判断・評価できる人が私は好きだし、自分もそういう人でいたいと思う。
そして子供のころからセキセイインコを何度か飼ったことがあり大のインコloverの私は、展示室でもこうのさんが描かれたインコの絵に萌えまくり、出口に置かれた「こうのさんへのお手紙を入れるポスト」もインコでさらに萌え、

1階出口の「またね! by インコ&カナリア」にノックアウトされ、、、

家に帰ってソッコーでこうのさんのインコ漫画「ぴっぴら帳」をポチってしまったのでした、、、
これも双葉社から出ているのですが、残念ながら今は販売されていないようで中古しか手に入らなかった、、、😢
まさか、「これも原画無くしちゃってま〜す、てへっ」ってことはないですよね、双葉社さんっ💦

(下の方でシャツから頭をちょこんと出しているこのインコに萌えない人なんて、どの世界の片隅にもいないはず)
美しく、でも悲しみや残酷さの本質も描かれる迫力があり、ネームもアシスタントも使わず背景も細かい線で手書きされる熱量が胸に迫る絵はもちろん、個人的にとてもツボなややドライなユーモアのセンス、そして生き物loveなこうの史代さんの作品を、今後も楽しみに追いかけたいと思います。






















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